会計教室②貸借対照表 5つのポイントで自己診断
こんにちは。千葉県鎌ヶ谷市の税理士池田光智です。
忙しい中小企業の社長に簡単な決算書の読み方を紹介します。
今回は貸借対照表の分析方法についてです。貸借対照表の基本構造については会計教室①をご参照ください。
貸借対照表では主に会社の安全性を読み取ることができます。税理士や金融機関が注目している5つのポイントを簡単にご紹介します。
(1) 手元流動性比率
手元流動性比率とは、1か月の売上代金を回収するまでに、手元資金で支出を賄うことができるのかを表す指標です。流動資産の中でもすぐに現金として使用できる、現金、預金、短期保有有価証券の合計を月商で割り返した数値です。1か月間売上げの収入がなくても会社を回すことができる体力があるかを図る指標として最も短期的に会社が安全かを判断することがでます。一般的に大企業で100%以上、中小企業で150%以上の数値が望ましいとされています。ただし、手元流動性比率が高すぎる会社は手元資金を寝かせすぎていることになりますので、高ければいいというわけでもなさそうです。
手元流動性比率=手元流動性資産÷月商×100
(2) 当座比率
当座比率とは流動負債に対する当座資産の割合を示しています。会社の短期的な支払い能力を測る指標です。当座資産とは、流動資産の内、短期的に回収される資産をいいます。具体的には棚卸資産など換金性が低い資産を除いた現預金や売掛金、受取手形、短期保有有価証券などが挙げられます。次に紹介する流動性比率よりもより換金性が高い指標で、一般的には当座比率が100%を上回っていれば、安全とみられます。
当座比率=当座資産÷流動負債×100
(3) 流動比率
流動比率とは流動負債に対する流動資産の割合を示しています。会社の短期的(1年以内)な支払い能力を測る指標です。流動資産とは1年以内に現金化できる資産、流動負債とは1年以内に返済しなければならない債務などです。貸借対照表の流動資産が流動負債を上回っていれば、流動比率は100%以上と、簡単に読み取ることができます。流動資産には現金化できるか不特定の棚卸資産などが含まれているため、流動比率は一般的には高めの150%以上必要と言われています。
流動比率=流動資産÷流動負債×100
(4) 負債比率(ギアリング比率)
負債比率とは自己資本に対する他人資本の割合を示しいています。会社の返済能力を表す指標です。一般的には100%以下であれば安全性に問題ないとされ、低ければ低いほどいいとされています。一方で、負債比率はギアリング比率とも呼ばれ、株主にとっては比率の高いほうが、財務レバレッジが機能していて投資効率がよくなるので、債権者とは逆の評価をされることがあります。会社としても成長期と判断すれば自己資本だけでは到底勝負できませんので、ある程度の投資は必要です。投資回収をきちんと計算できれば100%以下にこだわる必要はありません。
負債比率=負債÷自己資本×100
(5)自己資本比率
自己資本比率とは総資本のうち自己資本の割合を示しています。会社の安全性や財務基盤を図るうえで重要な数値で、一般的には40%以上が優良企業と言われています。自己資本比率が高いほど経営は安定し、倒産しにくい会社ということになります。また、自己資本は資本金とこれまで会社が積み上げてきた利益の合計額ですから、自己資本が高い企業ほど、良い経営を積み重ねてきたことが読み取れます。ただし、中小企業の場合は会社の業績が良ければ、役員報酬などで経営者に利益を還元するのが一般的ですし、自己資本比率が高すぎる場合は投資効率が悪いケースもありますので、一概に高ければ全て良いとは言えません。
自己資本比率=自己資本÷総資本×100
まとめ
御社の5つの指標はいかがでしたでしょうか。(1)から(3)は短期的な資金繰りの安全性を、(4)は借入の返済能力を(5)は財務基盤を図る指標で、いずれも会社の安全性を図ることができる重要な数字です。貸借対照表から簡単に計算することができますので、決算書や試算表を見る際はご確認ください。このほかにも中長期な安全性を測る指標として、固定比率や固定長期適合率などがあります。また、今回ご紹介した安全性の分析は、不良債権や粉飾在庫などがないことが前提の判断基準になります。取引先の決算書を分析するときは、違う角度からの分析も必要となりますので、またの機会にご紹介できればと思います。
最後に、毎年利益を出している優良企業は、資産の部と純資産の部に利益が蓄積されますので、総資産は年々増幅し、自己資本も増加します。総資産と自己資本の前年対比を意識して経営していただくと、会社の成長をより実感できるものと思います。
今週の税務会計クイズ
ソフトバンクグループ㈱の前期末決算時点の自己資本比率は次のうちどれでしょうか
① 14.6%
② 56.7%
③ 74.2%
答え
正解は①です。積極的に投資をして事業拡大するソフトバンクグループ㈱の自己資本比率は低いですね。ちなみに同期の当期純利益は1兆円超です。自己資本比率だけでは会社の良し悪しを判断することは難しいといえます。同社は今後も医療やAI分野に積極的に進出していくようです。参考までに②はKDDI㈱、③は㈱NTTドコモの数値です。