会計教室③ 粉飾決算を見抜く極意
こんにちは。千葉県鎌ケ谷市の税理士池田光智です。
木曜ドラマ「ハゲタカ」が先週から始まりました。内容は小説で知っているものの、実写版は役者の迫力があり、見応えがありますね。
さて、身の回りで企業買収は遠い話のようですが、最近では後継者不足問題から事業承継の一つの方法として中小企業でも増加の一途をたどっています。実際のところ自分の会社が将来どうなるかは何の保証もありません。
また、こういう時代だからこそ、営業担当者や管理職の方は新しい取引先との取引開始にあたり、相手会社の信用情報を自分の目で確かめる力を磨く必要があると思います。
ドラマ第1話のバルクセールでは実地調査の場面がありましたが、本日は決算書類を見るだけで粉飾決算や不良債権が存在する可能性を見抜く方法を解説いたします。
実際に決算書はIR情報などで広く公開されていますので、興味のある方は一度確かめてみてください。
1、架空売上を見抜く方法
利益を捻出するための一番簡単な方法は架空の売上を計上することです。しかし、粉飾は決算書の至る所に歪みを生じさせます。架空売上による粉飾は以下の方法で見抜くことができます。
(1)売上債権回転日数の増加に注目!
売上債権回転日数とは、商品を販売してから売上債権を回収するまでにかかる期間を日数で示した指標です。
売上債権回転日数=(売掛金+受取手形)÷(売上÷365日)
◇例題で比較してみましょう
《粉飾前》
年間売上 1,200万円
期末売掛金 100万円
期末受取手形 50万円
売上債権回転日数=(100万+50万)÷(1,200万÷365)=45.6日
《粉飾後》
決算で150万円の売上を架空計上した場合
売上債権回転日数=(100万+50万+150万)÷(1,350万÷365)=81.1日
粉飾の結果、売掛金の平均回収日数が81日となりました。業種平均や前期と比較してみてください。ただし、前年も粉飾している場合は、3期比較など長期的に確認する必要があります。
(2)売上総利益率の増加に注意!
売上を架空計上すると利益率がよくなります。売上総利益率は原材料等の高騰など外部要因がない限りそんなに大きく変化するものではありません。前年に比べ利益率が2%以上上昇している場合は、原因が何かを確認する必要があります。
(3)勘定科目内訳書のここをチェック!
勘定科目内訳書の債権項目には取引先ごとの債権の明細が記載されています。
前年のものと比較して、同じ取引先で同額の債権がないか確認してみてください。該当する債権は過去に粉飾したものか、すでに回収できない不良債権の可能性があります。
(4)仕入債務÷売上債権
売上債権の回収期間と仕入債務の支払期間が同じ場合、表題の計算式により算出される比率は売上原価率と近似値になります。
会社によって売上債権は1カ月、仕入債務は2カ月サイトなど変えている場合があると思いますが、その場合は、比率を過去3期分比較してみると変化に気づくことができます。
簡単な計算で粉飾の可能性を見抜くことができます。
2、仕入除外・架空在庫を見抜く方法
架空売上以外の利益を上げる方法として、決算月の仕入れを計上しないという方法と、在庫を架空計上するという方法があります。
いずれの手法も原価を減らすことで利益を捻出ことになりますが、1と同様に決算書の至る所に歪みが出てしまいます。仕入除外や架空在庫は以下の方法で見抜くことができます。
(1)棚卸資産回転日数の増加に注目!
棚卸資産回転日数とは商品を仕入れてからどのくらいの日数で販売できているかを見る指数です。
棚卸資産回転日数=在庫金額 ÷(売上高÷365日)
決算期末に在庫を架空計上すれば分子が増えるので、当然、回転日数が増加します。過去の数値と比較して増加していないか確認してみましょう。
(2)仕入債務回転日数の減少に注意!
仕入債務回転日数は仕入債務を何日後に支払っているかを示す指数になります。
仕入債務回転日数=仕入債務÷(売上原価÷365日)
決算期末に仕入債務を計上しない処理をすると、分子が異常に小さくなり、回転期間が通常より短くなります。過去の数値と比較して、支払期間が短縮されていないかを確認しましょう。
(3)勘定科目内訳書のここをチェック!
勘定科目内訳書には仕入債務の取引先ごとの明細が記載されています。
過去に毎年計上されていたのに、計上されていない又は減少している項目がないかチェックしましょう。
(4)売上総利益率の増加に注意!
上記1と同様に、在庫の架空計上や仕入れの未計上は利益率を高めることになります。
(5)仕入債務÷売上債権
上記1と同様に、仕入債務が減少すると比率が異常に減少します。
3、経費の計上漏れを見抜く方法
上記以外の粉飾決算の方法として、支払った経費を除外する、あるいは翌期以降に繰延べするという方法があります。このような経費除外による粉飾は以下の方法で見抜くことができます。
(1)現金の増加に注意!
会社で使った経費を損金計上しない場合は、結果として現金残高が増加します。現金残が前期に比べて不相当に増加している場合は注意が必要です。
(2)減価償却費は調整されやすい!
減価償却費が適正に計上されているかを前期決算書と比較してみてください。
法人の場合、法定償却限度額以内であれば任意に償却できますので、黒字にするため、法定限度額より低く計上しているケースがあります。
資産に大きな変動がないのに、減価償却費が極端に減っていないか確認しましょう。
また、申告書の別表には減価償却不足額が記載されますので、申告書がある場合は簡単に確認できます。
(3)立替金・前渡金・長期前払費用・繰延資産等は粉飾の温床!
表題のような資産勘定には本来経費にすべきなのに、資産として計上し費用を繰延べ処理しているケースがあります。
これらの資産勘定は償却しなくても気づかれにくいため、費用がそのまま消されてしまうことになります。勘定科目内訳書などをチェックして不明瞭な資産がある場合は注意が必要です。
まとめ
一見うまく粉飾したように思えても、数字を誤魔化すことはできません。
無理をすればどこかで矛盾が生じるからです。
今回紹介した方法で、不良債権がないかもある程度推測することが可能です。
新規取引先や提携先等には決算書を提出してもらい自分の目で確かめてください。
また、自分の会社の財務状況を判断するときは本ブログ「会計教室②」も是非併せてご参照ください。