成功する中小企業の社長が実践するES改善術
こんにちは。千葉県鎌ヶ谷市の税理士池田光智です。
中小企業の社長にとって一番の悩みは雇用の問題といっても過言ではありません。
弊社の顧問先においても、「採用したいのにいい人が見つからない」、「大量離職で現場に負荷がかかり過ぎ、残っている従業員の不満が大きい」とった声をよく聞きます。
会社は誰のものかという議論がよくされますが、それ以前に従業員がいないと会社は成り立たないのが現実です。
雇用に不安を抱えている社長は、「従業員あっての会社」ということを痛感されているのではないでしょうか。
ESとは、従業員満足度(Employee Satisfactionの略)のことをいいます。
大企業では定期的な社内調査が行われ、従業員に高いモチベーションを維持しつつ長く働いて貰うためにどうすべきかを専門の部署が管理しています。それに対し、中小企業では社長自身がみずから現場の陣頭指揮をとっていて、なかなかそこまでは配慮が回らないというのが現実ではないでしょうか。
今回は税務会計とは少し離れたテーマですが、経営とは切っても切れない雇用の問題を取り上げたいと思います。
1、離職損失はいくら?
従業員が辞めれば補充すればいいという考えの経営者がいると思います。しかし、従業員を補充する前に従業員1人の離職損失が、どの程度経営に影響を与えるかを考慮しなければなりません。
ある顧問先の例で、従業員1人が退職した場合の損失額は以下の通りです。
・採用費 30万円
・人件費1 30万円(離職者の有休消化)
・人件費2 30万円(新入社員の試用期間)
合 計 90万円
上記はコストのみの積算ですが、その離職者がお客様と積み上げた信頼関係やノウハウを考慮するとどうなるでしょうか。
例えば、3年務めた従業員が離職した場合の影響を上げるとしたら以下の通りです。
・既存顧客の売上減(この先10年以上も)
・新規顧客獲得の機会損失
・生産性(新人が追いつくのに最低3年)
・教育コスト(周りの従業員のコスト)
また、一時的な品質低下や他の従業員への負の影響などの要因も無視できません。
ある調査では従業1人の離職損失は1,000万円以上とも言われています。人の新陳代謝が全くない状況が決していいと言うわけではないですが、1人の退社でも目に見えない損失がたくさんあることも忘れてはなりません。
2、ESアップで売上アップ
ESは経営にも少なからず影響を及ぼします。
一般的にCS(顧客満足度)を上げるためには、マーケティングや商品開発等などの方法が考えられますが、ESが上昇している会社は連動してCSも上昇し、結果として売上の増加につながるケースが多いと言われています。
ES上昇 → CS上昇 → 売上増加 → ES上昇
CSを上げる方法を考えるのも実践するのも従業員ですから、従業員のモチベーションが高い会社の方がCSを高くできるのは当たり前の話です。会社の成長の源泉が従業員にあるということが改めて認識されます。
3、給料だけが問題ではない
厚生労働省が調査した「仕事を辞めた人の退職理由」の結果は以下の通りです。(複数回答)
(転職前後の雇用形態と男女別で分類)
正社員 → 正社員(男性)
1位 給与が少ない 40.7%
2位 会社の将来に不安 31.7%
3位 労働時間が長い 30.9%
4位 会社の経営方針に不満 30.1%
5位 正当な評価をされない 21.1%
正社員 → 非正規社員(男性)
1位 会社の将来に不安 26.8%
2位 給与が少ない 21.4%
2位 労働時間が長い 21.4%
4位 正当な評価をされない 17.9%
4位 希望する仕事ではない 17.9%
正社員 → 正社員(女性)
1位 会社の経営方針に不満 32.3%
2位 給与が少ない 30.6%
3位 労働時間が長い 29.0%
4位 会社の将来に不安 24.2%
5位 正当に評価されない 21.0%
5位 人間関係 21.0%
正社員 → 非正規社員(女性)
1位 労働時間が長い 29.0%
2位 会社の経営方針に不満 24.6%
3位 会社の将来に不安 20.3%
4位 人間関係 17.4%
5位 給与が少ない 15.9%
従業員が離職する理由としては「給与が少ない」、「長時間労働がきつい」という理由が上位に占める一方、「会社の将来性に不安」や「経営方針に不満」などの理由も同水準に挙げられています。
中小企業の社長の場合、給与水準を特に気にしてしまいがちですが、従業員の退職理由は様々な要因があり、問題の本質がどこにあるのかをしっかりと見極める必要がありそうです。
4、ESをアップさせるには?
アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグのモチベーション理論によると、満足度を構成する要因としては、衛生的要因と動機付け要因の2つがあります。
衛生要因とは不満足を強化するマイナス要因で、動機付け要因は満足度を強化するプラス要因のことを指します。
ES改善には、この2つの要因を切り分けて会社の問題点はどこか整理する必要があります。
衛生要因の例
・給与水準
・労働時間
・人間関係
・経営方針
動機付け要因の例
・仕事のやりがい
・公正な評価
・処遇
・自己の成長
ここで重要なのが、不満ではない状態(=衛生要因がクリアな状態)はあくまで前提条件ということです。
どちらか一方が満たされていてもESは上がりません。
また、衛星要因が満たされてもモチベーションアップにはつながりません。
衛生要因が満たされている状態で動機付け要因を具体化していくことが重要となります。
適正な給与・適正な労働環境 → モチベーション向上 △
やりがい・評価・成長実感 → モチベーション向上 ◎
上記調査結果をもとに考えると以下の2段階に分けて、具体的な改善を図っていく必要があります。
第1段階 衛生要因の充足
・給与水準の改善
・労働時間の改善
・人間関係の改善
・福利厚生の充実
第2段階 動機付け要因の充足
・経営理念の浸透
・公正な人事評価制度の導入
・正当な処遇
・社員教育の充足
5、「経営理念」を共有することがES向上の第一歩
1年以内に辞めてしまう若者の退職理由には、給与水準などの問題よりも「やりたい仕事ではなかった」、「自分に仕事が合わない」などの理由が多くあげられます。
中小企業の場合、中間管理職等の上司もいると思いますが、社長が身近にいる存在ですから、若者に今やっている仕事の意義を伝えることが社長の重要な役割といえます。
会社の存在意義である経営理念をしっかりと社員と共有することが、第2段階の「動機付け要因」を充足し従業員のモチベーションを上げる最も重要な鍵であると言えます。
中小企業(従業員30人以下)における「動機付け要因」を上げる主な施策
□ 社長が従業員と経営理念を共有する
□ 社長が従業員とコミュニケーションをとる
□ 社長が適切な人事評価する
□ 社長が会社や従業員の将来のビジョンを示す
編集後記「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」
ES改善は雇用の万能薬というわけではありません。例えば、御社の採用方法に問題があり、そもそも適性に合わない人材を採用している可能性はあります。
またESを改善したからと言って、業績改善に直結するとも限りません。時代の変化に即した経営者の経営判断や企画開発の方がより重要であるケースもあります。
そう考えるとES改善は会社を経営し、事業を継続していく上で最初に取り組まなければならない基礎的工事と言えます。
会社の基礎となり骨格となるのが人、まさに「人は城、人は石垣」とは現代社会にも当てはまる名言といえます。