税制を決めるのは国民の権利~代表なくして課税なし~
こんにちは。千葉県鎌ケ谷市の税理士池田光智です。
いよいよ日曜日には総選挙が実施され、新しい政権が誕生します。
本日は、税理士の立場から選挙の意義について改めて考えたいと思います。
1.解散総選挙の意義
今回の解散総選挙の理由について、総理大臣は以下のように論じています。
「子育て世代への投資を拡充するため、消費税の使い道を大きく変える。税こそ民主主義であり、税制の使い道を見直す大きな決断をする以上、国民の皆様に真意を問う」
解散の本当の目的は明らかでありませんが、税制や税金の使い道を変えるには国民に真意を問わなければならないという話自体は、憲法の原則である国民主権に則った考え方といえます。
2、憲法における租税の位置づけ
103条ある憲法の条文のなかで、租税を直接規定するものは次の2条です。
憲法30条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。
憲法84条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
いずれも、租税は「法律の定め」に則り、施行されることが明記されています。
3.財産権の侵害では?
そもそも国民の財産は憲法29条で何人にも侵害されないことが保証されています。
憲法29条 財産権は、これを侵してはならない。
しかし、現実には税金は国家から一方的に課され、従わない場合には強制徴収されます。
では、私たちは何故税金を納めなければならないのでしょうか。
4.税金を払う意味
言うまでもなく税金は、私たちが社会生活を営む上での公共的な活動を維持するために必要不可欠なものです。無政府主義をとらない限り、国家の経費を国民が負担することを否定することは難しいと言えます。私たちは自らが必要な経費を税金という形で負担し、社会生活を維持しているのです。
また、税金は経費の負担以外にも以下の役割を担っています。
①公共サービスの提供
②所得の再分配
③景気の調整
④資源の再分配
5.税制を決めるのは国民の権利
日本の税金は基本的に申告納税制度を採用しています。行政コストを抑える意味もありますが、私たちは自ら納める税金を計算し、自ら申告納税しています。
何故なら、憲法には「法律の定め」により租税の納税義務を負うことや課税の仕組みを決定することが明記されているからです。
税金を誰からいくらどのように徴収するのか、そして何に使用するのかを国民が法律で決めることを憲法が保証しているのです。
しかし、全国民が一同に会して合議することは現実的に不可能なため、国民の代表者である国会議員に「法律を定める行為」を委任することで、間接的に課税権を行使しているのです。
6.消費税増税の論点
今選挙の争点の一つである消費税の増税は、消費税の性質を踏まえ幅広く考察しなければなりません。
(1)誰から徴収するのか
①垂直的公平と水平的公平の選択(消費税の逆進性)
②世代間負担の公平を調整する機能としての効果
③増税しない場合の必要な財源はどこから捻出するのか
④軽減税率制度の是非
(2)何に使うのか
①増税分が行政の経費負担である場合の妥当性(無駄の見直し等)
②増税が少子化対策などの政策的目的の場合の有効性
③社会保障を手厚くするいわゆる大きな政府を目指すのか
(3)国民生活への影響はないのか
①景気への影響
②社会的弱者への配慮
③下請企業への配慮(価格転嫁対策)
7.税制は選挙でしか変えられない
選挙は租税制度の改変を政治家に託す数少ない機会です。民主主義が形骸化しない為にも、政治家や政党の政策を精査したうえで、選挙権を行使することが大事ではないでしょうか。
また、選挙に行かなければ白紙委任となります。仮に現政権が政権を維持した場合は、2年後の消費税増税が確実になります。選挙で決めたことを後から変えることは民主主義国家である以上、簡単にはできません。税制は選挙という機会でしか選択することができないのです。